
昨夏出展した「
猫展」の会場で、猫をテーマにコンサートを行ってくださったクラリネット奏者、
橋爪恵一さんも出演の「
ことばと音の出会うところ 萩京子個展」演奏会を四谷区民ホールで聴いた。
幕開けは『
遺書』。60年代の学生運動に関わり、鉄道自殺した
高野悦子の遺稿集『
二十歳の原点』、64年東京オリンピックのマラソンで
銅メダルに輝き、後に「もうすっかり疲れ切ってしまって走れません」と頚動脈を切った
円谷幸吉の遺書、60年代から70年代初頭「
のんびり行こうよ」などのCMディレクターとして活躍し、縊死した
杉山登志のメモをテキストに、萩京子さんが作曲した作品。
ひとりの人間の遺稿・遺書を四人、混声四部で歌うという構成が、
心の複雑さ、
魂の光と影の階調を表現していた。
それにしても「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました」に始まり、なになに美味しゅうございました、が続く円谷の遺書は、節制を旨とするアスリートにとって
食べ物の味がどういうものだったかを考えると胸に迫る。萩さんの曲は、
ぎりぎりの崖っ縁で綴られた言葉に潜む思いを、
丁寧に、また衝撃的に伝えていた。
様々な曲の演奏の最後は、
夏目漱石の『
こころ』に寄せた同名楽曲で締め括られた。これもKを自殺させた「先生」の遺書。雪の降りそうな真冬の夜に、深くしみいる演奏会だった。
余談だが、このblogを始めた昨年11月25日は、
三島由紀夫が45歳で割腹した
憂国忌35周年の日に当たる。