友人の映像ディレクター・小林一君からのご指名を頂きまして、1日1本、7日間に渡って映画を挙けるFBの「映画チャレンジ」に参加させて頂きます。「映画チャレンジ」とは映画文化の普及に貢献するためのチャレンジで、#savethecinema に関連するものです。5本目はフランシス・フォード・コッポラ監督の『
ゴッドファーザー』です。

2001年6月発行の雑誌「GQJAPAN」(嶋中書店)100号記念号の特集「
ゴッドファーザー」に、編集者からのご依頼で寄稿した文章のタイトルを「ニノ・ロータのゴッドファーザー組曲」とし、
PARTⅡでの兄弟の感動的な和解の抱擁に潜む兄殺しの決意という相反する二つの要素を、『移民のテーマ』と『マイケルのテーマ』を短く交互に繰り返す音楽で見事に表現している手法などについても綴った。
この作品にはコッポラの家族愛・映画愛が溢れ、音楽にニノ・ロータを起用したこと自体も含め、「映画チャレンジ」1回目に取り上げたフェリーニに対するオマージュも要所に見られる。音楽で言うなら聞けば誰もが知る『愛のテーマ』がイタリアに舞台が移るシーンで初めて掛かる他、フジテレビの看板長寿番組『世にも奇妙な物語』の元ネタ、オムニバス『
世にも怪奇な物語』のトリをフェリーニが飾り『悪魔の首飾り』という邦題になった『トビー・ダミット』のテーマ曲が、『恐怖のホール』と曲名を変えて用いられている。そして展開では何と言ってもラスト、三部作を通じての主人公マイケルの妻で、パートⅡでは別れることになるケイが、信じたいが状況が状況の夫を何とも言えない表情で見つめるカットは、『
甘い生活』の主人公マルチェッロを天使のような少女がやはり何とも言えない表情で見送るラストカットから構想さられたものであろう。両者共に二つの世界の断絶が、前者は閉ざされる扉、後者は潮騒と海へ流れ込む水の溝で描かれる。そしてマイケル、マルチェッロ共に本来は反対側の世界に属していた。
因みにパート2の後に作られた『
地獄の黙示録』では、『甘い生活』冒頭でキリストを吊る不謹慎なヘリコプターと、『
8 1/2』で高らかに演奏されるワグナー作曲『ワルキューレの騎行』が組み合わされている。
もう一つ引用話を付け加えると、パートⅠの最も衝撃的なシーンでありニノ・ロータのわざと調子を狂わせた音楽の効果も抜群な、映画プロデューサーのウォルツがシルクの布団の下から愛馬の首を見出し狂乱する様は、現在放映中のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で、土岐頼芸(ときよしのり)が自慢の鷹を蝮の斎藤道三に殺され戦意喪失するシーンに引き継がれていると感じる。
『ゴッドファーザー』の主要なモチーフは「心ならずも」あるいは「望みもしなかったが」…と言えるだろう。親父のマフィア稼業を嫌っていた三男マイケルが後を継ぐことになる、そのきっかけの病院でで殺される間際の父親を救う一連のシーンは、無人の廊下を駆けるマイケルの後ろ姿を斜め上から俯瞰したカメラアングルと言い、鼓動を思わせる音楽と言い、緊迫感も親子の情愛も激しく胸を打つ。Ⅱの「…」は離婚であり兄殺しになってしまうのだが。
アカデミー主演男優賞を蹴ったマーロン・ブランド演じるドン・コルレオーネが、長男が暗殺されたことを養子のトムに告げられた、と言うより促し告げさせた時、「犯人を詮索するな。復讐はいかん」と言って事態収拾のため主要ファミリーのトップ会談を開く指示を与えてから、項垂れるトムの肩を抱くシーンは、マイケルが今作終盤から続編終盤に至るまで復讐の鬼と化すこととの対比が、ただし若い日のドンもシチリアで復讐を果たすことと合わせ感慨深い。
ドンが孫と遊んでいる最中に発作を起こして息絶えるくだりは、子役が怖がって撮影が大変だったらしいが、私も死ぬ時はこんな風がいいなと憧れてしまう。マイケルのように自らを孤独の淵に追い込んで死にたくはない。両者のこの最期の違いは、それまで自分自身にどれだけ正直であったかだろう。
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