友人の映像ディレクター・小林一君からのご指名を頂きまして、1日1本、7日間に渡って映画を挙けるFBの「映画チャレンジ」に参加させて頂きます。「映画チャレンジ」とは映画文化の普及に貢献するためのチャレンジで、#savethecinema に関連するものです。
3本目はルキノ・ヴィスコンティ監督の『ルートヴィヒ』です。

大学3年と4年の間の休み、2ヶ月強ヨーロッパを一人旅した際、バイエルン王ルートヴィヒⅡ世についてはこの映画のロケ地である、彼が生まれたニュンフェンブルク城そして遺した3つの城などを巡ったが、生誕の城の庭園で空を翔ける白鳥を仰ぎ見、孤高の王の白鳥趣味は、彼がパトロンとなるワグナーのオペラ『ローエングリン』の影響以前に、幼い頃より馴れ親しんでいたことに起因していたのかと実感した。
映画のほろ苦くも最も甘美なシーンの舞台となった、リンダーホーフ城の庭にあるヴィーナスの洞窟には、撮影時の粗そうの形見が「ヴィスコンティがつけた傷」として残っている。白鳥たちが優雅に身を浮かべていた人工洞窟での思いのままの振舞いは、狂王か巨匠でなければ許されない所業だろう。
ヘレンキムゼー城をエリザベートが訪れるシーンで、ヴェルサイユ宮殿を模した鏡の間を目の当たりにしたハプスプルクの皇妃が示したリアクションは、大仰に身を捩っての高笑いだった。それをカメラは遠くとらえ、虚しくも豪奢な空間に、まあ、こんなものを作って!とばかりに嘲笑と微笑みの入り混じった笑い声が残酷にこだまする。上流階級の実像を辛辣に描く手腕において、ミラノを支配した貴族の末裔であるヴィスコンティの右に出る者はいない。
音楽は、ヴェーヌスベルク(ヴィーナスの洞窟)から始まる楽劇『タンホイザー』の、死の迫る同名ヒロイン・エリザベートの平安を祈る『夕星の歌』をはじめ、ワグナーの名曲が随所に流れる他、シューマンの『子供の情景』が青春の日の内向的な美貌の王と冒険心溢れる年上の美女シシー(エリザベートの愛称)の逢瀬を優しく彩る。
ドイツ語のneu(ノイ)は英語のnew、schwan(シュヴァン)はswanでノイシュヴァンシュタインすなわち新白鳥城の名の通り麗しいシルエットを持つ新城にやって来た最愛のエリザベートに、歯痛と心痛に苛まれるルートヴィヒは醜態を曝すのを嫌って遂に逢わず、再会のラストチャンスを失う。この城を目指した大学3年生の私は観光ルートの馬車道に抵抗を覚え、裏の雪道に足を埋めながら苦労して登った。その甲斐あって城の裏側にある美しく凍りついた滝のもとに出、次の俳句を詠んだ。
凍滝(いてたき)を妃としたり白鳥城
独身のまま恐らくは映画のラストが暗示する通り暗殺されたルートヴィヒはその滝を愛し、ほとりに幕屋を張らせ時には食事もしたという。やはり生涯独身だったヴィスコンティにとって、映画は心血を滝の如く注いで愛した伴侶でもあったろうか。
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